鏡の国1

ふとふりかえると、ずっとこのままだったような気がする。ところどころ、すっぽり穴があいて欠落しているが、その欠落はなかったもののように、今では自分の姿を写すばかりになっていた。
意思は、その始まりから主体を必要とし、いや、それともそれはただの差異でしかなかったのだろうか。

他者。

他者だって?

セタは不意に背中を振り返った。僕を見ているのは誰か?視線が交わる場所にいるのは、セタの顔をした誰かだった。

だが、あれは僕ではない。

なぜなら、僕はここにいるからだ。

何故か危ういものを感じながら、セタは繰り返しつぶやく。

僕は、ここにいるからだ。

目をあげた先を覆うのが何なのか、すぐにはわからない。
やがてそれが自分の顔であることに気づく。あまりにも滑らかに自分をトレースするものだから、セタはつい、目の前の影から自分が話しかけているような気になる。

僕はここにいるのだ。

途端に体が宙に浮くような不安に囚われる。

ここって、どこだ?

唇の僅かな震えさえも捉える完全に一致した影が、セタを捉える。

鏡の向こう側が声もなく立ちすくむセタを吸い込み、無限の反復が始まった。